イーゲルヒュッテ
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イーゲル

  • Author:イーゲル
  • 699円。タイ生まれ。
    瞳は少年、ところによりおっさん。
    すっとこどっこいな文章und日常の切り売り。
    魚の皮、海老の尻尾を好んで食べます。
    リンクはフリーにござい。

    よく出てくる人たち(一部人外)
    相方(夫)、Y氏undH氏(息子)、不踊木偶〈オドラデク〉(不可視舞弄具ペット)。
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2006/04/16//Sun.
『茶碗の中』の続きを書いてみる

小泉八雲の『茶碗の中』の続きを書いてみる企画に参加しました。
興味のある方はどうぞ。
時代がかった台詞を書くのは初めてなので見苦しい点はご寛恕
下さいませ。
イーゲル版『続茶碗の中』
…結構長くなったかも。
私が元にしたのはコチラに収められています。

新編 日本の怪談
新編 日本の怪談
posted with amazlet on 06.04.16
ラフカディオ・ハーン 池田 雅之
角川書店 (2005/07/23)
売り上げランキング: 1,104,850

関内の身に起きた面妖な出来事。見知らぬ男の顔が湯飲みに
浮かび、その顔の主とあいまみえたこと――拙者に恨み憎しみを
抱く輩の仕業か。はたまたあやかしの類が惑わしたのか。
さまざまな考えをめぐらせたが、どれも得心がいかない。
終には茶碗に顔が浮かんだ、只それだけのこと。
それだけなのだ、と考えるに到った。

ある日の黄昏どき、関内は邸宅の縁側で長閑にお茶を飲んでいた。
春の時分だというのに夏のように暑かったせいで喉が渇いていた。
なみなみと注いだ一杯目をぐいと飲み干し、二杯目のお茶を湯飲みに
注ぐと見覚えのある顔が浮かんでいた。
「やや、貴殿は式部兵内殿ではござらぬか。いつぞやは……
今更ではござるが、不肖関内の無礼を詫び申し上げ候。
して、拙者が斬りつけて負った傷の具合は如何なされた。」
深手を負った恨みを晴らさでおくべきか、と出てきた式部兵内
だったが、関内の斯様な慇懃な態度にすっかり面喰ってしまった。
しかし、そのことを悟られまいと威丈高な態度でこう言った。
「ふん。それがしの傷を貴殿に心配されるいわれなどないわ。」
「そうであった。無粋なことを申してしまった。されど、斯様に
大きい声が出るならば心配は無用でござったな。」
湯飲みを片手に頭をかきはにかみながら関内は言った。
己を斬りつけた仇への恨みで頑なになっていた式部だったが、
その言葉を聞いて仕返しの決意が揺らぎ始め、式部は逃げるように
茶碗から姿を消してしまった。

またあくる日も式部は関内の茶碗の中に出た。
恨みを晴らす気持ちがまったく無いわけではなかったが、関内と
語り合うことが密かな楽しみになっていたのである。
他方関内は茶碗に式部の顔が映っても、当たり前のことのように
思っていた。
すっかり二人は古くからの友であるかのごとく親しくなった。
関内の茶飲みの時間は式部との語らいのときで、欠かせないもの
となった。
「貴殿に教えたいことがある。」
「はて、何でござるか。式部殿。」
「人間が縁起ものとしてありがたがる茶柱は知っておろう。」
「…はい、茶柱がたつと縁起が良いという話は聞いたことが
ありますが――」
「うむ、ならば今度茶柱がたったとき湯飲みの中を覗いてみるが
良い。あれが立ったとき御伽草子の竜宮にも勝るとも劣らない
絢爛豪華な宮殿が現れるのだ。つねならばうつしみの貴殿らには
入ることがかなわぬ場所なれど、彼のときだけは入ることが
できるのだ。まさにどんな絵師の筆であっても描けないような
美しさでな、一度行ってみるが良いぞ。」
「ほう、斯様なところが…。されど貴殿にとって仇である拙者に
何ゆえ教えて下さったのか。」
式部は微笑むだけで何も答えてはくれなかった。

式部と親しくなるにつれ関内は自室にこもりきることが多くなった。
勤めを終え、風呂に入り夕餉を済ませると湯飲みを手にそそくさと
立ち上がって自室へ向かうのである。
不審に思った彼の妻は夫の部屋の近くで耳をそばだてていた。
すると関内の楽しげな話し声、時折大きな笑い声が聞こえてきた。
独り言にしては様子がおかしい。妻は思い切って障子越しに声を
かけてみた。
「おや、お前さん。楽しそうだね。誰と話しているんだい。」
「何だお前は。急に話しかけるとは不躾にもほどがあるぞ。
…殿、とんだ無礼をいたした。ここは一つ拙者に免じて許して
下さらぬか。……ほう、許して下さるか。…殿かたじけない。」
急に自分を叱りつけたと思ったら、誰かに侘びを入れているようだ。
いきなり話しかけてすまなかったと詫びながら、妻は障子を開けた。
「……あれ、誰と話していたんだい。誰もいないじゃないか。」
夫の他には書き物をするための文机と使っていない座布団が二枚
あるだけで、湯飲みを持った関内の他には誰もいなかった。
念のため、押入れや戸袋の中も探してみたが、怪しいものは何も
見つからなかった。
「お前さん、独り言はもう少し小さな声でお言いよ。私ゃ気でも
狂っちまったのかと思ったよ。」
「何を言うか、このたわけが。ここに式部殿はおられるでは
ないか。」
関内が声を荒げ、持っていた湯飲みを指さし妻の前に突き出した。
そこには冷えきった緑茶がなみなみと入っており、自分の顔が
映って揺らめいているだけであった。
「なんだい、私の顔じゃないか。お前さん、疲れてるんじゃない
のかい。」
「わからぬのか。ここにおられるだろう式部殿が。」
冗談や軽口を言うような人間ではない。朴訥で真面目さだけが
取柄で、要領良く立ち回れずに出世の波に乗れない夫のことはよく
知っている。
「すまなかったよ。」
そう言って妻は立ち去ったが、関内の話し声は夜更けまで続いた。

日ごとに顔色の悪くなっていく関内。それを見かねた妻は
夫が勤めへ行っている間に、霊験あらたかで高名な法師に
相談を持ちかけた。
妻の話を聞いた法師はそれをあやかしの仕業であることを
すぐに見抜き、元凶をつきとめた。
その正体は関内が仕えている大名の先祖にかつて敗れた武士で、
日頃、供養がおろそかにされている恨みから出てきたものである
という。法師は護摩を焚いて式部の霊魂を慰め、関内の茶碗の中に
二度と出てこぬよう諭した。
何も知らぬ関内はいつもの如く式部と語り合うために湯飲みを手に
部屋へ向かった。
けれども、茶碗の中には自分の顔が映るだけで式部の顔は
映らなかった。
「式部殿…。」
ひと月ほどはまだその習慣が続いたが、式部と会うことがもう
叶わないことを悟りはじめ、ふた月めにはもう部屋にこもることも
なくなった。
式部のことを忘れ、普通の生活に戻った頃、勤めもなく
邸宅の縁側で手ずから茶をいれ、一人庭を見ながら茶を飲んでいると
茶の中に浮かぶものが。
式部と話したことを思い出して覗き込んだ。
そこにはただ若草色の液体があるだけだった。
関内は頭を振って苦笑いをし、お茶を飲み干した。

本歌取り企画(二次創作) | trackback(1) | comment(4) |

comment

2006/04/18 00:34

 これはうまくひねりましたねえ~
面白かったです。

piaa | [ edit ]

2006/04/18 07:25

ありがとうございます。大感激です。
時代がかった台詞を上達させるため
古典も読もうかな。はっきり言って苦手です。
もう本当に似非日文卒だな私ゃ。

イーゲル | [ edit ]

2006/04/20 23:51

茶碗の顔保存計画の一端が垣間見える、大変面白いお話でした。
あ、関内って妻帯者なんだ。
因縁、神通力に頼るという怪談のポイントをうまく押さえていますね。
だんだん、自分の書いたものが情けなくなってくるな。

先日本屋さんで、岩波版の「茶碗の中」を立ち読みしました。
訳者は、平井 呈一さんで、さすがホラー味が増しているなぁと思いました。
翻訳によって、同じように訳しても、ずいぶんと印象が変わるものなんですね。

くろにゃんこ | [ edit ]

2006/04/21 08:10

茶碗の顔はゼラチンが駄目ならシリコンで固めるのがベストかな~。
関内の詳しいプロフィールは原作に書かれていない以上わかりませんから多分妻帯者かなー?と思って勝手に妻帯させるわ、式部兵内の因縁話をでっち上げ、高名な法師を持ち出すわ、これぞ二次創作の醍醐味!と楽しく書かせていただきましたよ。
>平井呈一さん
それは読んでみたいです。

イーゲル | [ edit ]









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小泉八雲「茶碗の中」の続きを書いてみよう企画
小泉八雲ネタが続いておりますが、今しばらくご辛抱を。「怪談・奇談」に寄せられたコメントの中に、続きを考えてみましょうという課題があったというものがありました。ウムウム。面白そうではありませんか。というわけで、<「茶碗の中」の続きを書いてみよう!>企画を考
//くろにゃんこの読書日記 2006/04/20 23:34

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