イーゲルヒュッテ
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イーゲル

  • Author:イーゲル
  • 699円。タイ生まれ。
    瞳は少年、ところによりおっさん。
    すっとこどっこいな文章und日常の切り売り。
    魚の皮、海老の尻尾を好んで食べます。
    リンクはフリーにござい。

    よく出てくる人たち(一部人外)
    相方(夫)、Y氏undH氏(息子)、不踊木偶〈オドラデク〉(不可視舞弄具ペット)。
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2007/03/04//Sun.
(濃縮還元)ライフリサイクル 其の二

前回分はこちら。
(濃縮還元)ライフリサイクル其の一

一応完結。

「歯並びだけセーフ」は麒麟のコント『抗議』より拝借。
不満と不安がてんこ盛り。

「蓼食う虫」の食する蓼はヤナギタデと呼ばれるもので、
蓼と言えばこの種類を指すという。独特の香りと辛味を有し、
香辛料として薬味や刺身のツマとして食される。辛味成分は
ポリゴジアール――
ウィキペディア蓼参照)
男は事典のように丁寧に教えてくれた。
ルバーブや蕎麦も蓼の仲間だという豆知識を添えて。
「随分詳しいのね。先生みたいだわ。他に何か特技とかないの?
例えば、ナイフ投げとか。サーカスで通用するような――」
するとにっこり微笑んで――
「できるよ。百発百中、心臓部命中なら。
……なーんてな。ウチの会社にはそういうスペシャリストもいるよ。
君は川に身投げの水死タイプを選択したけれど、顧客の中には
ナイフ投げの的になって当たり所が悪かったという、いまわの際を
演出したい人間もいるからなあ。
プラン変更する?水死から不慮の事故死方面に?」
「いい、水死も不慮の事故も無しでよろしくお願いします、って、
――演出?演出って……死ぬんじゃないの?」
「死ぬって訳じゃないんだが、精神面、魂の方を肉体と切り離して、
身体は回収して他の人に回す。リサイクルだもーん♪
どうやって精神と肉体とを分断するかは企業秘密ね。専売特許技術な
もんで。
余命が長い程その身体の耐用年数も比例して長くなるのが普通だから、
若い方から売れるよ。
だから君もその点、大丈夫。売れ残ったりしないよきっと!
売れ残りという言葉に敏感に反応してしまう。
遠縁の二十代後半の親類女性の顔が思い浮かんだ。
(行かず後家、姥桜……私はまだ十代だから、は、早いもん……)
頭を振ってイメージを振り払おうとする。
「――それって、見た目は私でも、中身は違っているってこと?
あ、でも私の中に入っていれば私としての人生を
歩むことになるのか。そしたらもともとそこに入っていた私は何?
何になるの?」
「――さあ、何になるんだろうね?」
肩をすくめて両手を上に上げるジェスチャーをした。
川面をひとすじの風が撫でてゆく。熱気が和らいで少し涼しく感じた。
男はさも楽しげに笑った。大きな口の口角を上げて。
どうしてそんなにお口が大きいの?ビデオテープを横に入れても
大丈夫なようにだよ。世の流れはDVDが主流だけどね。

「無責任じゃない、そんなの?天国まで無料サポートサービスとか
ないの?地獄へ火車でお見送りとか……?」
「んなもんあるかよ。――どっちが無責任だよ?」
「どっちって……」

身投げ希望の契約者だと勘違いされて男に渡されたDM、
それにはこんな謳い文句が印字されていた。
応援します!貴方の人生の途中下車!
改めて希望者の返信内容を読み返し、中細ゴシックの黒い謳い文句を
人差し指でなぞる。
「これ、返すわ。まったく……人違いもいいトコだけど、
身投げしようと考えていたのは本当だったからびっくりしちゃった。
こんなこと、別に心の底から本気で思っているわけじゃないよ。
……チョット、ちょっと逃げたかっただけ。
これで言うところの「人生の途中下車」、みたいな?
『橋の上の娘』っていう映画があってね、ナイフ投げの男が失恋して
身投げしようとしたヒロインを助けてくれたように、私も誰かに
助けて欲しかった……それだけ。
なのに…なのにっ!死神もどきみたいな男から早く逝けって
催促されるなんて。」
「酷い話だな。」
悪びれずに言う男の顔を遠慮なく睨みつけたが、効果は無い。
眉間に作った皺を抑えて憐れむような演技すら見せ、その直後
ヘラヘラと笑っている。
苛立つ心を抑えつけ、別れの挨拶も無しに帰路につこうと
したが、男の素っ頓狂な声に思わず振り返った。
(何なの……)
「ごっめーん!言い忘れていたことがあった!契約者以外の
ライフリサイクルの情報を知っている人間の口を封じなきゃいけない
んだってよ。ほら、就業規則に書いてある。」
手のひらに収まる程度の手帳を開いて該当する規則の文章を指差す。
理解するのに二秒、怒りがこみ上げたのは後一秒。
「口封じしなきゃいけないんだってよ、ってアンタが勝手に
話したんでしょうが、死神もどき!
胡散臭い企業の就業規則に則って口封じされなきゃいけない
なんて……。」
そもそもこのふざけた会社が実在するかどうかはわからない。
けれども、男の言うように口封じをされてしまう可能性も全くゼロとは言い切れない。
馬鹿馬鹿しいのを承知した上でのことだった。
意を決して言った。
「私は口封じなんて信じている訳じゃないけど、契約してあげるわ。
契約内容は、余命なんて残っていないくらい寿命ギリッギリの人生を
全うして老衰で死ぬ、ってのはどうよ?カス程度の余命しか残って
いないような。
――そういうのは駄目?駄目?」
「老衰でも全然構わないよ。余命が少ないと買い手が付きにくくて
在庫処分に困りそうだけどな。
じゃあ、このノートの一番後ろのページに書いてくれ。」
表紙が茶色い一冊のノートとボールペンを少女に手渡す。
「ちゃんと書かないと――」
「はいはい書けば良いんでしょ。それよりあっち行っててよ。」
「あと――他のページは見るなよ、絶対、絶対だぞ」

「……でもさ、全く悔いの残らない人生なんて歩めるものなのかな。
……そんな人生送れた人なんているのかよ、っておい、聞いてる――?」
男の姿はなかった。
ざっと周辺を見渡してみたが見当たらない。
いないのもう一度確認してノートの他のページを開いた。
はじめの方をめくるとあの十段階評価が。
(どうせ可愛くないもん。人間中身が大事よ。――あ、頭脳、
四だって言われたんだった。)
顔や頭脳に対する中程度の評価を苦々しい思いで読み返し、その次の
ページを繰る。
歯並び:十段階評価中九~十 歯並びだけセーフ
(歯並び……)
微妙な褒め方に笑みがこぼれ、高評価の白い歯がむき出しに
なる。
男の行方が気になったが、風で飛ばされないようノートの表紙に石を
置いて橋を後にした。

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